連載|保育士奮闘記
第1回「2歳児の“思い”にふれる」
第63期生 秋間伊津子(あきま・いつこ)さん 59才 保育士
私は保育園で2歳児を担当している保育士です。
学んでいるコーチングが子どもと関わる助けになっているので、その一端をご紹介します。
2歳児は厄介
私は、保育園とは保護者の方が安心して預けられる場所であり、園児が健やかに過ごせ、
生きていくための必要な習慣や社会のルールを教える場だと捉えて仕事をしています。
2歳になってくると、こだわりが強くなり、自己主張もするようになります。すると、お友達との摩擦でトラブルが起こります。
トラブルが起こると、私は厄介なことが起きたと思い、早く穏便に解決することばかり考えていました。
子どもの気持ちがどうなのかよりも、”保育士”としてトラブルの原因を探り、私が考える解決の落しどころに子どもを誘導してきました。
”癇癪を起こす子”に傾聴技法で関わってみる
なかでも私のクラスのゲンちゃん(仮名)は、お友達とレゴブロックの取り合いをし、
相手を噛んだり、引っ掻いたりとトラブルが絶えません。
他の園児やゲンちゃん自身の安全を守り、安心して過ごせるようにするにあたって、
ゲンちゃんは「自分の思い通りにならないと癇癪を起こす扱いづらい子」になっていました。
私は、ゲンちゃんを私のいうことを聞く良い子に変えようとしていました。
コーチアカデミーで、コーチングを「個性を活かす」ための技術として、理論と技法を学んだので、
ゲンちゃんの個性を活かすにはどうすればいいんだろうと思いました。
そこで、学んだ通りに傾聴技法を使ってゲンちゃんの思いにふれることを優先する関わりをしてみました。
子どもならではの感性にふれて感動
ある時、お友達の遊んでいるブロックを彼が奪い、走って逃げたことがありました。
私はゲンちゃんを追いかけ捕まえました。いつもなら逃げたゲンちゃんを叱っていましたが、ふと冷静になり、
今回はコーチングの傾聴技法を使って、ゲンちゃんの思いを聴いてみることにしました。
すると、彼は「泥棒さんになりたかった」と言ったので、私はビックリしました。
大人の私には、子どもが泥棒になりたいと言うなんて信じられませんし、許せません。
これまでの私なら「お友達のブロックを取っちゃダメでしょ」と頭ごなしに叱ったり、「泥棒になりたかった」に対しても、
彼の将来を心配して怒ってしまい、彼を責め立てていたかもしれません。
私は傾聴技法を使って、さらにゲンちゃんの思いを聴いてみました。
すると、「この緑のブロックはお馬さんが食べる草なんだよ」と教えてくれました。
私は「そうだったのか!!!」と驚き、子どもならではの感性に心が揺さぶられました。
私が考えているような泥棒になりたかったのではなく、彼は馬にエサをあげたかったのかなと思いました。
泥棒という彼が知っていた表現を使ったに過ぎないのだと思えると、なんだか微笑ましく感じてきました。
子どもに対する見方が変わった
このように、コーチングの傾聴技法を用いることで、これまでのようにトラブルの原因を探り一方的に叱るのではなく、
ゲンちゃんの子どもならではの感性にふれたり、キラキラと瞳を輝かせて語る彼の思いにふれることができました。
さらに、ゲンちゃんの思いにふれることで、これまで「自分の思い通りにならないと癇癪を起こす扱いづらい子」と思っていたゲンちゃんは、
「自由な発想で遊びを展開する力のある子」という見方に変わりました。
このことによって、彼を私のいう事を聞く良い子にするのではなく、
彼をはじめとして他の2歳児たちの“思い”にもふれるような関わりを続けていこうと思うようになりました。
続く