連載|保育士奮闘記
第2回「2歳児のイヤイヤ期に関わる」
第63期生 秋間伊津子(あきま・いつこ)さん 59才 保育士
私は保育園で2歳児を担当している保育士です。
今回は、保育士のいうことを聞かない問題のある子と思っていたゲンちゃん(仮名)に、コーチングの傾聴技法を用いて彼の思いを知ろうとする関わりをしたことで、ゲンちゃんの自発的な行動が促された事例です。
コーチングの技法を実践し、ゲンちゃんの思いを聴いたことで、彼には彼なりの思いがあることを知り、ゲンちゃんに対する見方が変わりました。
すると、ゲンちゃんに問題があるというより、私が彼の思いを聴こうとしなかったことが問題だと感じ始めました。
そこで、傾聴技法を用いてゲンちゃんのこだわりや自己主張を知ろうとすることで、彼や私にどのような変化があるのかを知りたくなりました。
保育士の助けを拒む
2歳にもなると「イヤイヤ期」を迎え、こだわりや自己主張が強くなります。1歳頃には保育士の思い通りにできていた子でも、イヤイヤ期にはその子なりの独特のやり方にこだわり、保育士の助けを拒むようにもなります。ゲンちゃんもイヤイヤ期を迎え、やりたくないことは強く拒否し、逃げ回ったり暴れたりすることも多くなってきました。すると、彼にかかりきりになってしまい他の子と関わる時間が取れず、クラス運営に支障をきたすだけではなく、私自身の気持ちに余裕がなくなるのを感じていました。
イヤイヤ期に傾聴技法で関わってみる
特に、お昼寝明けは忙しく、寝起きでグズグズする子達のオムツ替えをし、皆におやつを食べてもらわなくてはいけません。ゲンちゃんのイヤイヤ期の気持ちに傾聴技法でじっくり向き合ってあげたいと思うものの、他の園児もいるのでゲンちゃんだけに向き合う時間的な余裕はないと感じていました。それゆえ、皆と一緒におやつを食べさせるために、彼のオムツを替えることを優先し、ゲンちゃんの気持ちは後回しになっていました。そこで、学んだコーチングの技法でゲンちゃんの思いにふれたく、お昼寝明けのゲンちゃんに傾聴技法を用いて関わってみました。
ゲンちゃんの意思でトイレに行った
ある日、お昼寝が終わった頃に保育室に入ると、ゲンちゃんは「オムツがビチョビチョだから替えようよ」と促されているのに、走って逃げ回り、机の下に隠れてしがみついて動かなかったので、3人の保育士が手を焼いてどうにもできない状態でした。
私はゲンちゃんに近づき、机の下を覗き込みながら傾聴技法を使って関わってみました。すると、彼は誇らしげに「ビチョビチョのオムツが好きなの!!」と言ったので私はビックリするのと同時に興味を惹かれました。以前の私ならビチョビチョのオムツが好きなわけはないと決めつけていたかもしれません。でも、もっと彼の思いを知りたいと私は思ったので、さらに傾聴技法で関わり続けました。
すると、彼は丸まりながら甘えるように「ダンゴムシさんになって寝ていたかったの」と教えてくれました。私は「そっか!!寝ていたかったんだね」と応えると、彼は突然、意気揚々と机の下から飛び出し、ズボンを脱ぎ棄て、床に落ちたビチョビチョのオムツを蹴っ飛ばしながらトイレに向かって走り出しました。一見よくない行動に見えるかもしれないビチョビチョのオムツを蹴っ飛ばすことも、私にはゲンちゃんのほとばしるエネルギーの発露のように感じられ、微笑ましく感じるとともに、ゲンちゃんがゲンちゃんの意思でトイレに行ったことが嬉しくなりました。
時間と気持ちに余裕がうまれた
このようにコーチングの傾聴技法を用いてゲンちゃんの思いにふれることで、ゲンちゃん自身が自らの意思でトイレに行くことができたようです。
以前の私は、時間通りにクラス運営したいという焦りがあったためオムツを替えることを優先し、ムリヤリ机の下から引きずり出そうとして、かえって時間を奪われていました。しかし、彼の思いを優先することは、ゲンちゃんが自発的に動いてくれることにつながり、結果として、時間の余裕や私自身の気持ちに余裕ができ、他の子達に関わる余裕も感じました。
今後も2歳児の思いにふれることを通じて、子ども達の自発性を発揮してもらう一助となるような関わりを増やしていきたいと思います。