連載|保育士奮闘記
第3回「園児同士のトラブルに関わる」
第63期生 秋間伊津子(あきま・いつこ)さん 59才 保育士
私は保育園で2歳児を担当している保育士です。
これまでは、コーチングの技法をゲンちゃん(仮名)と私の関係に用いてきましたが、今回はゲンちゃんとお友達のトラブル解決に技法を使った事例です。
保育園でのある日、園児同士でオモチャの取り合いが発生!
でもそこへ、別の園児のリナちゃん(仮名)が2人の間に入って「私がお話を聴くよ」と、まるで仲立ちしてるような姿を見かけました。
その光景を見た私は「2歳児でも仲立ち・・・」と深く感心しました。そこで早速「園児に習い」、私自身は園児同士のトラブルに、コーチングの傾聴技法を用いて関わることで、トラブル解決の一助となるのではないかと考えました。
トラブル発生!!!
さて、最近のゲンちゃんのマイブームは黄色です。たくさんのレゴブロックの中から黄色だけをせっせと集め、ゲンちゃんは大きな黄色い塔を作っていきました。背丈ほどの高さまで積み上がった所で彼は「ヤッター!!」と両手を広げ飛び跳ねながら喜びました。すると、大きな黄色の塔があることに気づいたカズキくん(仮名)が一目散に走ってきて何度も蹴っ飛ばし、塔をバラバラに壊して逃げ去っていきました。トラブル発生です!!!
ゲンちゃんは悲鳴をあげ、泣き叫びました。以前ならお友達を追いかけ噛みついていましたが、今回はただ泣いているだけなので、私は「壊したお友達を噛まずにえらいぞ!」と思いました。そして、彼が噛まずに我慢しているように見えたので、ゲンちゃんの成長を感じ、なんともいえない嬉しさが込み上げました。
そこで私は、泣き続けているゲンちゃんのいまの気持ちや、どんな思いでブロックを積んだのかを聴いて寄り添いたいと思いました。「先生がお話を聴くよ」と声をかけ、彼の隣に座り、コーチングの傾聴技法を用いて彼の話をじっくり聴きました。
「聴き合い伝え合う」ことで自然と仲直り!
一方、カズキくんにはカズキくんなりの思いがあるのではないかと思いました。そこで、私はゲンちゃんと一緒にカズキくんの思いを聴いてみると、カズキくんには塔を壊したくなる彼なりの理由がありました。
その後、私はカズキくんにもゲンちゃんの思いを聴いてもらい、2人は聴き合い伝え合うことで、自然と仲直りをしてしまいました!
これまでなら泣いているゲンちゃんを必死に泣き止ませようとして、かえって激しく泣かせてしまったかもしれません。そして、カズキくんには塔をバラバラに壊したことを叱りつけ、彼の思いを無視して無理矢理にでも謝らせていました。自然と仲直りしたことに私はビックリしました。
「新たな選択肢」友達と協力しあうこと
仲直りしたことが嬉しかったので、ゲンちゃんに「先生と一緒にもう一度作ろうか?」と誘うと、彼は私の手を引っ張って、塔が壊れた場所に連れて行ってくれました。私の手を引っ張るゲンちゃんの小さな手の温もりを通じて、また作りたいという思いが伝わってくるようでした。
すると、いつの間にやらゲンちゃんとカズキくんは2人で協力し、「あぁだったかな…こうだったかな…」と話し合いながら楽しそうに黄色い塔を再現し始めたのです!私は静かに見守りました。
ゲンちゃんには1人で作るのではなく、2人で作るという新たな選択肢が生まれたようです。2人の様子が楽しそうに見えたのでしょう、他のお友達も加わって立派な塔になっていきました。完成が近づいてきた時、バランスを崩して壊れてしまいました。
私は「ゲンちゃんが泣く!!」と思いましたが、ゲンちゃんは大笑いして床を笑い転げまわっていました。みんなゲンちゃんにつられて笑いました。保育室が温かい空気に包まれた気がしました。2人のトラブルが解決しただけでなく、みんなで仲良く協力し合って塔づくりを始めたので私はさらに嬉しくなりました。
コーチングの傾聴技法を日常的に用いる
コーチングの技術を用いることで、バラバラに壊された塔をもう一度作ろうとするゲンちゃんの思いや協力し合うことへのサポートが少しできたようです。
以前なら泣き叫ぶゲンちゃんをムリヤリ説得しようとしたり、カズキくんを叱ってムリヤリ謝らせようとしていました。しかし、ゲンちゃんとカズキくんにお互いの思いを聴き合い、伝え合ってもらうことで自然と仲直りができ、トラブルを解決することができました。さらに、2人で協力し合い他の友達とも一緒にブロックの塔を作り直すという新たな選択肢も生まれました。
2歳児にもコーチングの技法が有効だ
このようにコーチングの技法を日常的に実践することで、子ども達がお互いの思いを聴き合う、伝え合う助けになることについても紹介させていただきました。
そもそもコーチングを学び始めた頃は、技法を大人に対して用いるものと思い込んでいました。ところが、これまでの体験を通して、保育士として2歳児にも有効活用できることを確信しています。
これからも、子ども達がお互いの思いを聴き合い、子どもが自分自身の思いを伝えられるようにサポートし見守るためにも、コーチングの活用と継続学習を続けていこうと思います。